【バルセロナの変革とエゴイズムの限界】
– 結果 –
リーガ 12節 カンプ・ノウ
バルセロナ 3-0 レアル・マドリード
リーガ 31節 サンティアゴ・ベルナベウ
レアル・マドリード 4-2 バルセロナ
-試合内容-
前途洋々たるバルサフットボール
バルサの伝統的な4-3-3の戦術を採用した。
中盤は逆三角形、3トップのサイドはワイドをベースにポジションを取り、DFからボールを大切に繋ぐ意識が強くなった。レアルからはこの傾向をまだみられない。
またサイドバックを使った攻撃は、バルサがみせる多彩な攻撃のアクセントであり、サイドバックの重要性もこの頃からバルサが示し始めていた。
コートを広く使ったボール回しに磨きがかかり、ショートパスを繋ぎながらゴールを目指すスタイルは、このシーズンからのバルササッカーの特徴的なポイントであり、現在多くの人が抱くバルセロナのイメージをみることができた。
変化の感じることのできないレアルマドリード
一方レアルは、前シーズン2003/04シーズンから変化の少ない内容だった。
攻撃と守備で役割が分断されていて、繋ぎの際もポジションを取り直すような動きも少なく、個の打開に頼らざるを得ないような組み立てに終始。
前シーズンに見せていた個人の力は衰えを隠せず、それに加えバルサの組織的な戦術に手を焼いていた。チームのために走るわけでもなく、それぞれが好きなようにプレーしているようにみえた。
ただ、結果だけをみるのであれば負け越しているわけでもなく、2試合目に関しては大量点も取っている。チーム全体のパフォーマンスとして劣勢なのは否めない展開ではあったが、個人のスキルでバルサから4点をもぎとり、銀河系と呼ばれる選手たちの意地とプライドを垣間見た。
とはいえ、チームとしての完成度は低く、個人の輝く場面はかなり限定的で、限界を感じる内容であった。
-背景とメンバー構成-
4-3-3の確立に着手と一人の魔術師
バルセロナのチームの編成を見てみると、前シーズンから大幅な変更があった。オランダ人プレーヤーの多くを放出し、エトーやデコなど実力者を揃えたのだ。
ライツィハー、コクー、オーフェルマルス、ダービッツ、ライツィハー、クライファート。
彼らが引退や放出により退団する形となったのだが、ライカールト監督は自身と同じ国籍の選手を多く手放し、大胆な入れ替えに踏み切った。
その大胆な変更によって、ライカールトは3トップがワイドにポジションを取った4-3-3を確立させ、パスを繋ぎ、バルサらしいスペクタクルなサッカーを展開し始めていた。このときから2019年に到るまで、この4-3-3のシステムはほとんど変わることなく採用されているのだから、大きな英断であった。
そしてもう一つクラブとしての大きな転機があった。ロナウジーニョというスパースターの飛躍だ。
前シーズンから加入していたが、ロナウジーニョがスターとしてブレイクしたのが、この年である。前シーズンまで不在だった世界的スタープレーヤーが誕生し、レアルとのネームバリューの差を、圧倒的なキャラクターで一気に縮めた印象だ。
またそこに、エトーとデコという的確な実力者も加え、さらに選手層の厚さをみることが出来た。
ビジネスとサッカー
このシーズンのレアル・マドリードの取り組みに関しては、ビジネス的な観点をさらに一歩進めた印象を持っている。
『レアルザムービー』や『ジダン神が愛した男』。
これら2つはレアルに関連する映画である。これらの映画は、このシーズン中の2つの試合を中心に撮影された内容であり、『レアルザムービー』はこの年のクラシコ第2戦を題材にした映画だった。この時代のレアルはやはり、世界に向けての認知やブランディング、ビジネス観点からの投資や運営が先行していたと見受けられる。
補強に関してみても一番の大きな補強と言えば、マイケルオーウェン。
FWにはロナウドとラウルを擁しているのにも関わらず 、新たなFWのスター選手を連れてきている。
結果論ではあるが、このスター選手の出場機会は限定的であり、大金を支払ってまで”ベンチに座るバロンドーラー”を獲得する必要があったのかと疑問を呈するものであった。
課題とされていたDFラインには、サムエルという実績のある選手を補強したが、彼に関しては、波のあるプレーに終始し、一年で退団している。このように補強に関して、多くの点で課題の残るものとなった。
また、このシーズン、カマーチョ新監督を迎えてスタートさせたが、4ヶ月で辞任するという予期せぬ事態があった。そのあたり考慮しなくてはならない部分ではあるが、それでもあまりにメディア寄りの話題が先行し、サッカーの結果にフォーカスしていないパフォーマンスであったと言わざるを得ない。
-まとめ-
変革と退化。この二つの言葉を連想させる今回の両チームであった。
メンバーに大きく変更はなく、戦術的な変化もないレアルには、退化している部分を多く感じた。銀河系のメンバーはモチベーションも下降線であり、年齢ゆえのスキルと運動量の陰りがみえ始めている。それでも過去に数々の偉大な功績を残してきた巨大な選手であり、そんな選手を扱うことの難しさは並大抵のことではないのだろう。
対照的にバルサのフレッシュ感は、観るものを楽しませてくれた。確実にパスを回すことで試合全体を支配し、個人のスキルの高さも随所にみせつけた。大胆な変革によって、リーガ優勝を果たし、大きな成功を納めた。
ただ前述でも述べたが、クラシコの結果だけ見たらレアルが負け越しているわけではない。
ジダンのポストに突撃しながらのヘディング、流血をしながらのラウルのゴール、ロナウドのゴールやベッカムのロングパスからオーウェンのゴール。銀河系を象徴する選手たちの底力は、個人の能力という面でシーズンのハイライトであった。
両者のそのような点からも組織と個人の戦いを読み解くことの面白さを感じた。
「組織」なのか「個」なのか、そんな論点からみていくのはサッカーの醍醐味でもあり、エンターテイメントとしても、また他の何かを考えるきっかけとしても、面白いテーマを示してくれた。
原稿 ヒロ
編集 クラシコの部屋運営